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Vesica Pisces
第8章 太陽は静寂に寄せる
メールが来ていた。

いつもの、お疲れ様とおやすみなさい。

こんな時電話が出来たら、話せたら。

些細な誤解はすぐ解けるのに。

あの夜気持ちが通じたと思ったのは自分だけだったのか。

確かめたいのに、その術は今手の中にあるこのツールだけ。

便利なくせに、全然役にたたない。

起きたついでにランニングに出て、街並みにカメラを向けた。

「なんて言やいいんだよ、好きです、付き合ってくださいとか…俺はアホか…」

言うのは言葉を持つ自分の方だ。

ぶぶっとポケットで震えたスマホを開くと、嘉登からのメール。

添付された写真を見て息を呑んだ。

遠くに来過ぎた事に自嘲して、スピードを上げて帰路に着いた。

「あれ、トオル、帰ったばっかでもう出掛けるの?」

「あーちょっとそこまで」

スマホと財布、パスポートを手に持って仲間に手を振るとマウンテンパーカーだけ羽織ってタクシーに飛び乗った。

「どこ行くんだ?」

「さっきマリウスが来て、ランプの補修が入るから明日は使えないって聞いた途端出てったらしいよ」

あまりの軽装に仲間たちはどうせコンビニか何処かだろうと気にも留めなかった。

が、一時間後、透は空の上に居た。
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