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Vesica Pisces
第8章 太陽は静寂に寄せる
音が無い世界になんて慣れてたはずだった。
音だけじゃなく、色も無くしてしまう。
凍てつくような雨の冷たさが、色を攫っていく。
全部を欲しいだなんて、言っていいのかな。
許されるんだろうか。
ふっと気配が離れて、透との距離がほんの数センチ離れただけ。
けれど、それは遥かな距離になる。
涙が浮かんで、もうそこには居られない。
雨に濡れて反射する横断歩道を歩き出した。
はっきりしないうちにこんなケンカをしてしまうなんて。
ぐんっと身体が前のめりになって、あっという間に横断歩道を渡りきっていた。
涙なんて呆れられる。
必死に拭うのに止まらない事にだんだん情けなくなって、やっぱり止まらない。
大粒の涙がぽたっと落ちて、少しだけ晴れた視界に大きな手がかざされる。
す き だ
顔を上げると透は唇を尖らせて、バーカと零す。
そして、消えてしまうとすぐ戻って来て、手のひらに油性のペンを走らせた。
〝透のものです〟
その字がくれたもの。
ぎゅっと握って胸に抱きしめると、透は一歩近づいて傘の中へ入って来た。
「帰るぞ、さみぃ」
駅に向かって歩き始める透の後を追いかけた。
音だけじゃなく、色も無くしてしまう。
凍てつくような雨の冷たさが、色を攫っていく。
全部を欲しいだなんて、言っていいのかな。
許されるんだろうか。
ふっと気配が離れて、透との距離がほんの数センチ離れただけ。
けれど、それは遥かな距離になる。
涙が浮かんで、もうそこには居られない。
雨に濡れて反射する横断歩道を歩き出した。
はっきりしないうちにこんなケンカをしてしまうなんて。
ぐんっと身体が前のめりになって、あっという間に横断歩道を渡りきっていた。
涙なんて呆れられる。
必死に拭うのに止まらない事にだんだん情けなくなって、やっぱり止まらない。
大粒の涙がぽたっと落ちて、少しだけ晴れた視界に大きな手がかざされる。
す き だ
顔を上げると透は唇を尖らせて、バーカと零す。
そして、消えてしまうとすぐ戻って来て、手のひらに油性のペンを走らせた。
〝透のものです〟
その字がくれたもの。
ぎゅっと握って胸に抱きしめると、透は一歩近づいて傘の中へ入って来た。
「帰るぞ、さみぃ」
駅に向かって歩き始める透の後を追いかけた。