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17歳の寄り道
第9章 【村上編】化学教師、村上浩輔
―――翌朝。

遅れてきた白川が昇降口にいた。

雨に濡れたのか、棚に片足を掛けて脚を拭いている。
白く滑らかな肌をした太ももがスカートから覗き、目のやり場に困った。

「何て格好してるんだ」

注意したが、白川は動揺もせずに俺を見、ばさりとスカートを直しながら足を下ろした。
その瞬間、煙草のヤニの臭いがほのかに漂った。昨日の甘く俺を刺激する香りとは正反対の…。

とりあえず喫煙したかどうかを確認したが、周りに吸っている人間がいただけだと答える。
そこで正直に吸ってるなどと答えるやつはめったにいない。まあ、白川は吸ってはいなさそうだが。

お義父さんが吸うのか聞いたら、なぜか白川の頬が赤くなった。

……あまりのめり込むなと自分に言い聞かせ、観測会に話題を変えた。
艶のある黒髪を耳に掛けた後、白い指に桜色の爪は承諾書を取り出し、俺に触れる。少しひやりとした指先。白川は口元に微笑みを浮かべる。

「確かに受け取りました。また遅刻になりますよ。急いで」

触れたことになど何にも気付いていない顔をしながら、教室の方向を指さした。


その晩。
学校からの帰宅中、運転しながら信号待ちをしていた俺は、ダッシュボードで震える携帯電話に気付いた。
画面には白川の名前。何事かと思って電話に出た。

「先生」と俺を何度も呼び不安がる彼女を、電話越しで宥める。

『会いに来て……』

その誘いは悪魔のようにすら思えた。引き込まれては最後だ。

「行ってやりたいけど……問題だろ、いろいろと…」

そう答えると我に返ったのか、白川は少し冷静になったように思えた。

今から庭で洗濯物を干すと言う。
一生懸命家事しているけなげな白川の姿が浮かび、顔が綻ぶ。気がつけば、「ちょっとだけ寄る」と口にしていた。

道沿いにあったコンビニに車を停め、煙草と焼きプリンを買い、再び車に戻る。鞄の中にある白いメモ用紙を取りだし、一言「明日話を聞くよ」と書きなぐった。
車には乗せない決意だ。今日は白川の顔を見て帰るだけだ。

―――次あいつを乗せてしまったら。
もう後には戻れない予感がしていた。
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