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17歳の寄り道
第10章 【村上編】急転
生徒はもう帰っていて、教室には誰もいなかった。古びた椅子を引いて腰を掛け、机に肘をつく。
白川は、しおらしく昨日の礼を述べた。

「あれでよかったのかなと、帰り道考えたんだけどね。俺の対応は合ってたのかなって」

もし、俺の欲情云々言ってられない、深刻な話だったら、昨日の俺は白川を見捨てたことになるが…
酷く抽象的な俺の物言いに、白川はぽかんとしながら、静かに答えた。

「…合ってたと思うよ。寂しくなって電話しただけだから…」

彼女は俯き、きれいな髪が柔らかく揺れた。

寂しさ、か。
また頭を撫でてやりたくなったが、頬杖をやめた手を自分の膝の上に置き直した。

白川は、義父と母の話を、まとまらない様子であれもこれもと話し出す。話の大半は、どこの家庭でもよくありそうな日常の話だったが、義父に脱いだ下着を見られているということや、性を匂わせる発言だけは心配になった。


「私ばっかり話してるね。きいてくれてありがとう、先生」

一頻り話し終えた彼女は、すっきりした笑顔を俺に向ける。現に小一時間は話し続けていて、罪滅ぼしができた気がしていた。

そして俺も、話したくなった。

「じゃあ、ひとつだけ俺も話そうかな」

俺がそう言うと白川は、大きな瞳を輝かせてねだるように見入ってきた。

教師になった経緯と、昨日の山家さんの電話。
いよいよ念願の地に戻れる喜びで浮かれていた俺は、生徒相手に洗いざらい話した。
さっきまで輝いていた白川の瞳が翳ったことにも気付かずに。

「やめちゃうの?先生を…」
「そうなるね。でも俺みたいな人間より、いい先生が来ると思うよ」
「会えなくなるのやだよ。天文部もせっかく入ったのに…」

寂しげに言うが、その言い草が引っかかり、大人げなく指摘をする。

「白川は俺目当てで入ったんじゃないでしょう。浅野だろ?」

すると白川は、困ったような顔をして俯いた。その表情は可愛らしく、俺の胸を素直に擽った。
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