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17歳の寄り道
第10章 【村上編】急転
教室は、夕暮れの陽が反射して黄金色になっている。
俺は県外にある中高一貫の男子校に通っていた。学校生活はバカばかりやっていて楽しかったが、こうして女子生徒とふたりで放課後の教室にいたような経験はなく、この年で甘酸っぱい事をしているなぁ…と差し込む陽射しをぼんやりと眺めた。

次第に鼻をすする音も減り、白川が真っ赤に潤ませた瞳でにこ、と微笑む。ようやく落ち着きを取り戻した彼女は、憑き物が落ちたように爽快な笑顔になった。

これが泣いたカラス…


「あーあ、仕事山積みだけど帰ろう」
「引きとめてしまってごめんなさい」
「謝らなくていい。送るから、駐車場行っといて」

――あ、つい、送ると言ってしまった。

…まぁ、いいか。

公園あたりは最近物騒だし、白川も泣いてスッキリしたようだし、今日は何もないだろう。
浅野だけでなく、今まで車に生徒を乗せることなんて珍しくもなんともなかったのだ。ただ、乗せた女子生徒は白川だけだが。

普通に家に送り届けるつもりが、白川はドライブがしたいと言い出した。

嫌な予感はないことはなかった。
でも、もう俺さえ毅然としていれば、俺さえ弁えていれば、何も間違いはないだろう―――と思ったのが甘かった。


「村上先生の…さっきの『好き』は、先生としての好き?」

勉強の質問をするのと同じようなトーンで俺に尋ねてくる。
こいつは、さっき教室での声掛けが恋愛感情だと聞いているのか?
そんなわけないだろう。好きなのは、教師としてだ。

「それ以外ないでしょう」

苦笑いしながら答えると、白川はぱっちりとした漆黒の大きな瞳で、遠くを見ながらふうんと言った。

「…じゃあ、それでもいいから好きって言って」
「『言って』って言われて言うのって…」

女はそういうのが好きだな。ガキでも同じことを言いやがる。
いままで付き合った女全員に言われた事だ。「好きだと言ってほしい」と。
白川は立場が違うので別として、それほど俺の愛情表現は乏しかったのだなと思い直した。

……そんな言葉は俺より浅野に言ってもらったほうがいいんじゃないのか?

「そういうこと、浅野は言わないのか」と尋ねると、白川は不服そうに溜息を吐く。

「言わないよ。つきあってないもん」

つきあってない???
あんなセックスをしていて?

頭に無数の疑問符が浮かんだ。
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