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17歳の寄り道
第13章 【碧編】春の観測会
凛太はもう、二階の寝室で寝ている時間だ。
無事に一人で入浴し、洗濯機を回す。

その間私も二階に上がり、また脱水が終わった頃下りて来ようと、居間の隣にある階段を上ろうとしたら、啜り泣く声のようなものが聞こえてきた。

すぐには気付かなかった。それが母のものだとは。

義父が何か笑いながら喋ると、今度は明らかな、纏わりつくような喜悦の声が聞こえる。

吐きそうになるほど不快だったが、あの人たちは夫婦だ。そういう事もしていて当然なのだ。
もしこれが、あの義父じゃなく本当の父だったら、ここまでの不快感はないのかもしれない。

―――本当の父とか、義理とか関係ないか。
白川孝介じゃなければ、ここまでの気持ち悪さは……きっとない。

極力声を聞かないでおこうともう一歩階段に足を掛けたら、再び義父の声がした。

「スケベだなぁお前は。お前に似たら碧ちゃんも淫乱だろうな?」

……気持ち悪…。
言葉責めにしてはセンスのない下らない台詞だ。
少し息苦しさを覚えながら、奮起して階段を上がる。

母は何か義父に答えていたが、妄りがわしく不明瞭で分からなかった。
大好きだった母が、遠くに行ってしまったように感じた。


もう、もう先生には縋らないと決めた。
遥も今、大変だし。

ゆっくり息を吐き、呼吸を整えようとするが、堪えていた涙は止まってくれず、次第に嗚咽が出てきて苦しい。

「はあ…うっ…ぐっ…」

一人、部屋の真ん中に座り込んで泣いていると、フローリングの床に置いていたスマホがヴーッ!と震え、ビクッと驚いた。
まるで私の嘆きを諌めるような有無を言わせない勢いのバイブに、涙も少し治まり、あたふたと内容を確認する。


「あ…先生だ…」

村上先生から、『プリン食べる?差し入れだから車には乗せないよ。』というメールが来ていて、顔を綻ばせながらスマホを両手で持つ。

『食べます。』と送ったら、『5分後寄ります』と返ってきた。


洗濯物干さなきゃ!
涙をごしごしと拭く。

夫婦の営みを邪魔してやりたかったけど、あんまり音を立てて凛太が起きるのもかわいそうだし、先生が来るのを見つかりたくもないので、静かに下り、洗濯かごを持って庭に出た。

焼きプリンはそんなに好きでも嫌いでもなかったが、先生がくれてからはちょっと好きになってきた。
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