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17歳の寄り道
第16章 【千晴編】最初で最後の日
「じゃあ…早くしましょうよ。先生も脱いで下さい」

藤田先生は、唇を噛み締め睨む私を一瞥し、ふんと鼻で笑った。

「まだ似合わないな。そういう下着は」

黒い下着の事を言っているようだ。羞恥で顔が真っ赤になる。

「じゃあどういうのが似合うって言うんですか」
「どういうのと言われるとわからないけど――…うちには、息子しかいないから」

お子さんがいるのは知っているが、具体的にご家族の話を聞く機会はなかなかない。
息子さんと並べるという事は、私の事も子供扱いという事だろう。

藤田先生は立ち上がって、クロゼットにあるガウンを取り、私に放った。

「まだ、エッチしてないですよ、先生」
「分かってる。俺がそう言う気になれん」

そう言う気になれんって……

先生の言葉に、女としての小さな自信を失くす。
小手先のセクシーさじゃダメなのか…。

「いいか。日付が変わる前には家に送る。今日はここでのんびりしたらいいんじゃないか。海も眺められるし、風呂も入ってくればいい」

と言いながら、先生は窓際に立ち、遥か向こうの水平線を眺めているようだった。
もしかして。最初から、セックスなんてしないつもりだったの?

「先生………ずるいです」
「何とでも言ってくれ」
「最初から応じる気もないのに、酷いです」
「……すまん」
「私の事、何だと思ってるんですか」
「…………」

涙は後から後からとめどなく流れ、みるみるうちに手元のガウンに落ちてゆく。

「お前は、生徒だろう。それ以外に何がある」

冷たく、鋭く刺さるような言葉に心までも抉られる。
涙でぐしゃぐしゃになった顔で恨めしく先生を見つめ、しゃくり上げる。

藤田先生はなりふり構わず泣いている私をちらりと確かめ、軽く溜息をついたように見えた。

「―――それ以外、答えが出せないんだよ。俺は……」

視界は涙でぼやけていたけれど……ずっと固かった先生の表情が、少しだけ人間味を帯びている。
もっと表情を確かめようと、ごしごしと目元を拭いて見上げた。
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