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第20章 【碧編】窮地

「うっ…うぐっ…ひっ…」

子供のように嗚咽しながら、先生の手に、少しずつ安心を取り戻した。

遥が、先生を呼んでくれたんだ。

こんな夜中に、こんな事で呼び出して申し訳ないが、義父と対等に話ができる男の人である事に、さっきまでの恐怖心が薄らぐ。


先生は私を助手席に乗せ、車を出した。

「お母さんの連絡先わかる？」
「えっと…あ、充電切れちゃって…。あ、でも番号は覚えてるよ」

小さい頃、お仕事で家にいないお母さんの声が聞きたくて、おばあちゃんちからかけてた母の携帯番号は、今もそらで言える。

「……そうか。今の時間だけど、お母さんには連絡取らせてほしい」

先生は運転しながら神妙な顔で言い、それがとても申し訳なくて、小さくなる。

「……先生。ごめんね…もう、先生じゃないのに…」

「何言ってるの。俺にとっては、ずっと大事な生徒だよ。」

先生の言葉に胸が詰まり、鼻をすする。
こんなに優しい大人がいるのに。
お母さんは、あんな義父の一体何が良かったの？

村上先生に母の番号を伝え、助手席に深く座っていた。


言いようのない、予感めいた不安感は常にあった。
ずっと、こんな目に遭うんじゃないかと思っていた。

嫌な予感は当たるんだ。
涙が枯れ果てた瞳を擦り、溜息をついた。


春の、公園の男も……義父だったなんて………

そんな男と一つ屋根の下で暮らし続けていた事に背筋が寒くなる。

「……まずは、自宅に戻ってみるか。個人の心情としては警察に突き出してやりたいけど、お母さんもご不在だし…。話になるかわからないけど、お父さんと話してみるよ」

「素直に話聞くような人じゃないよ、おかしいよ、あの人…」

涙声で言うと、先生はやりきれない表情をして頭を下げた。

「ずっと…前から、白川が悩んでいたことなのにな。力になってやれなくてごめん…」

「謝らないで。先生のせいじゃないじゃん…なんにも…」

義父の奇行を、なぜ先生が謝るの？
悪いのは、あいつなのに…

そう考えながら、がくんと首が落ちる。


……眠い。
目を開けていられない……。

疲弊した私は、憎しみの感情すら続かず、まるで心が現実逃避するかのように、夢を見ているような感覚でいた。