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17歳の寄り道
第21章 【碧編】夏の幻
先生に送られて、客間に向かった。
凛太が布団の上ですやすや寝ていて、その姿に安心しながら、蹴飛ばしていたタオルケットを掛け直した。


「先生は和室で寝るの?」
「ああ。………寝られるかな。もう朝だし…。寝ないでコーヒー飲もうかな」
「ごめんなさい………」
「もう、いい。謝るな」

少し強い口調で言われて、びっくりして顔を見上げたら、先生はきまり悪そうに呟いた。

「俺にまで……。俺の顔色まで窺わなくてもいい。俺は、白川の味方だから。普通にしていればいい」




……そんなこと、言われたら……。



「………………」



優しくされたら、先生に甘えてしまう―――。



義父からは逃れたけど、今も私を探してどこかを彷徨ってるのかもしれないし、あくまでこれは一時的な避難。

これからどうなるかわからない。あの男のせいで、私が騒いだせいで、家族が崩壊する。
母も今、どういう心境でいるんだろう。

……そんな思いに囚われているのも、先生はわかっているようだった。


だからと言って、今はむやみに泣けない。
凛太はいるけれど、今、遥もいなくて、先生と私だけなのに。
こんな不安な時は、自制がきかない自分自身を知っている。

目に涙をためて黙っていると、先生が緊張を解く様に言った。

「……強く言って悪かった。怒っているわけじゃなくて………。何か飲む?コーヒー飲むなら一緒に淹れるけど、寝れなくなるかな」

「………飲む」

「プリンならあるよ。食べて寝なさい」


こんな時も、プリン……。


「………食べる」


先生はふっと笑ってまたリビングへ歩き出し、私はひょこひょことついて行った。


「…先生、スマホ充電してもいい?」
「ああ。和室のコンセントに挿しっぱなしのがあるから、使っていいよ」

私のスマホを和室の充電プラグに挿し、キッチンへ戻る。
電源が入ったら、遥にLINEしなきゃ。

先生はキッチンで先の細いケトルでお湯を沸かし、コーヒーを豆から挽いている。

なんていい香り……。
さほどコーヒーを飲んだ事のない私も、この香りには安心する。

先生は手際良くフィルターと挽いた豆をセットし、沸いたお湯をゆっくり円を描く様に落とした。

「実験みたいだね…」
と言うと、先生が笑った。
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