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17歳の寄り道
第21章 【碧編】夏の幻
村上先生は、長い脚を組み、コーヒーを飲んでいて、ちょうど私に背を見せる角度になっていた。
私はドアの枠に寄りかかり、その後ろ姿に小さく呼びかける。

「……せんせい」

声を掛けたら、先生はすぐに振り向き立ち上がった。

「眠れないか」
「ん……」

もう、足も限界だ。
ドアの枠から手を離したら、先生が腕で支えてくれた。

「目を閉じると思い出すの」

先生は考え込むような神妙な顔をして、腕を掴む私の手を解き、指先を軽く握る。
子供をあやすようにしながら。
先生の温もりに安心する……


「一緒に、寝て。手をつないで…」

お願い、先生。
手から伝わる温もりだけで、きっと安心できるから。

「……わかった」

先生は、片腕で私を支えると、ゆっくり歩き出した。先生の腰に手を回し、ぎゅっとしがみつくようにして歩く。
先生の鼓動が頬から伝わってくる。
その匂いや肌触りに懐かしさを覚えて、行き場のない気持ちが溢れて、少し苦しい。

私は、客間の前に辿り着いても、先生の腰にしがみついたままでいた。

「…白川」
「うん…」
「立っていたら足に負担が掛かるよ」

もう離れなさいって言うのかと思ったけど、違った。
先生は私を抱えてドアを開けると、布団に下ろし、私の隣に座った。

「寝るまで、ここにいるから。寝なさい」
「…ん。じゃあ…手…」

先生の膝の上にあった手をぎゅっと握り、そこに頭を乗せて、膝枕みたいにした。

先生といると気が緩む。
抱えていた眠気は相当なものだったようで、目を閉じたら一瞬で眠れそうだった。

「膝痛い…」という先生の声に、夢うつつで膝から頭を下ろしたら、先生が立ち上がるような気配がした。


「先生、先生、行っちゃやだ……」
「…………どこにも行かないよ」

先生は私の横に座り直し、改めて手を繋いでくれた。





引き込まれるように、眠りに落ちてゆく。



でも、手のひらの温かさがあるから、怖くない。

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