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17歳の寄り道
第26章 【碧編】夢か幻か
あの夢での先生の言葉や場面を思い出すと、無条件な愛に包まれて、思い出している間は不安が消え、とても安心できるのだ。
夏の幻が、私の心の安定剤になっていた。


そんなある、冬の日。

国道沿いを走るバスに揺られていた。
もう暗くなった窓の外を見ても、ガラスには私の顔が映っているだけ。

クリスマスを一日過ぎた、年の瀬間近。
コンビニのバイトから帰った私は、突然思い立って、紙袋に入れたスニーカーと、お菓子が入ったサンタの靴を持って家を出た。

サンタの靴は、バイト先でもらったものだった。

クリスマスには一日遅れているけど、このまま、スニーカーを持ったまま年は越せないと思って、半ば衝動的にバスに飛び乗った。


夕方の5時半はもう暗い。
今日は、星がよく見えそうだ。

先日は、天文部で冬の観測会があった。
あの日も夜空は澄んでいたが、今日はもっと…


「○○3丁目ー、○○3丁目ー」

停留所のアナウンスで慌ただしく立ち上がり、バスを降りた。
広い国道。何度か通った事のある角を曲がったら、目的地はすぐだ。


先生には、何も連絡していない。
まだ仕事から帰っていないかもしれないが、今日思い立った事に意味がある気がして。

不在なら、紙袋を置いて、メモを残して帰ろう。


今年のクリスマスは、母と凛太と3人で迎えた。
少しずつ料理も教わり、ケーキも作ったりした。

母が仕事をセーブした分、僅かだが私のバイト代が家計の足しになっている。
決して裕福ではないけれど、今までで一番幸せを噛みしめながら過ごしていた。



イブの夜、遥は誰と過ごしているのだろう。
遥のそばに誰かがいることを考えても、もう痛みはない。

私みたいな女じゃなくて、遥がちゃんと信じられる相手が、そばにいてくれたらいい。

もう、何も始まることはない、ひと夏の思い出になろうとしていた。

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