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17歳の寄り道
第29章 【千晴編】私のこと、好きですか?
体育教官室は体育館脇にある。
放課後寒風吹き荒ぶ中、コンコンと強めにノックをし、かちゃりとドアを開けた。

「失礼します」

暖かい教官室はストーブが焚かれていて、冷えた体もほわっと緩む。
中には黒いジャージで足を組んでいる藤田先生がいて、迫力のある眼でギロリと睨まれた。

「……須賀か」

先生は机の上の資料をガサガサと出し、クリアファイルを手に取り椅子から立ち上がった。他の先生方は部活動に行ったようだ。

「睨まないでください……」
「コンタクトの調子が悪いんだ。睨んではない」

そっか、コンタクト……。って、先生がコンタクトをしてたことも初耳だし、目が悪いのも今知った。
こんなことだけで、愛しさがこみ上げて、きゅ、と切なく胸が締まる。
もう先生に纏わりつかないと決めたのに……。

「座れ。説明する」
先生の説明が始まり、太く節くれだった指が説明書きの上を滑る。
「走りたかったのになぁ……」と独り言を呟くと先生は指を止めた。

「体調は戻ったのか」
「はい。熱は下がりました」
「……声も出てるな」
先生は説明書きを私に持たせ、「以上だ」と言った。私はその紙を抱く様にして先生に頭を下げた。

「暖かいですね、この部屋」
「暖房が効いてるからな」

黒いジャージの広い背中を見上げて、質問をした。

「先生……」
「何だ」
「私のこと、ちょっとでも好きですか?」

先生は振り向いて、今度はコンタクトのせいではなく睨みをきかせた。「好きだよ」だなんて藤田先生が言うはずはなく、私も最後にそれだけは聞いておきたかっただけだ。
答えの代わりに沈黙が流れ、私は先生の背中に呟いた。

「もう、先生のこと追いかけ回したりはしません。……だからもう……終わりにします。迷惑かけてすみませんでした」

私が教官室を出るまで、先生は振り向かなかった。
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