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17歳の寄り道
第29章 【千晴編】私のこと、好きですか?
「ピアノ曲じゃなくて?」
「……ああ」

喜ぶところではない気もするけど、こんなところでホッとしてしまう。
奥さん=ピアノってわけじゃないんだろうけど……。

先生は右にウインカーを出し、私の家への道をそれて行った。

「先生、どこに向かってますか?」
「…………」

別に、どこに向かってても先生と一緒なら何だって構わない。
ふたりきりならどこだっていいけど、先生の意図が分からずに困惑する。

先生、何しに来たの?
私が放課後、もう終わるって言っても、何も言わなかったのに……。
こんな形で会いにきてくれたというのが、飛び上がりたいほど嬉しいことを、先生はわかっているのかな。
何か話をするつもり……なんだよね?

私は、軽く深呼吸をしてから話を切り出した。

「……先生は職場結婚なんですね」
「誰から聞いた」
「惇、くん…です」

藤田先生は、車に乗ってから初めて私を見た。

「惇と知り合いなのか」
「あ……一回、いちご狩りに行っただけですけど……」

重い沈黙から、父親の複雑な胸中が窺える。私はフォローするかのように言葉を付け足した。

「心配しないでください。惇さんとはもう会いません。そこまで、先生の世界に入り込みはしません」
「……好きにしろ。俺がとやかく言う権利はないし、関係ない」

先生はすぐに私から視線を外して、車は道なりに進む。
やがてついたのは、河川敷の脇道だった。

街灯の少ない河辺に車を停めた。
夜の河辺は不気味だが、月が水面に反射している情景はとても美しく、心を打つほどに幻想的に見えた。
きらりと光る水面から目を離せないでいると、私の視線を追うように先生も眺めていた。

「先生……お月さま、きれいですね」

そう言ったら、先生は私を見ながら怪訝そうに眉を上げ、またガラス越しに水面と月を見上げる。

「……死んでもいいわ、か」
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