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17歳の寄り道
第38章 【千晴編】スタートライン
碧の口から紡がれる、17歳の思い出話。

あの頃、いつも困ったような笑顔で、凛ちゃんのお世話とバイトに明け暮れていたのに――。
義父から仕掛けられた痛々しい話には言葉を失いながら、未熟な自分を悔やむ碧の話に耳を傾ける。

「私は、自分が一番不幸でかわいそうだって思ってて。バカだったの。みんなに迷惑かけて、……村上先生に謝りたいっていう気持ちがずっと消えない…」

碧は、具体的に村上と何があったか明言は避けていたけど、今まで罪悪感を抱えて続けていることが気の毒に思えた。


それは既に、呪縛でしかない。
そんな気がして。


「……もう、いいんじゃない?」

「え?」

碧が、涙をいっぱいためて私を見つめる。

「たとえば…今碧が受け持ってる園児が、ずっと『せんせいごめんなさい』って思い続けて卒園して、そのまま大人になってたらどう思う?」

「………嫌だね」

「でしょ?村上も、どっかで碧の幸せを祈ってるよ」

「…………」

碧の瞳から涙が落ちそうになって、慌てて紙の作品をよけてティッシュを渡す。


「そうだね。そうだね…私も、くま組のみんな、一人残らず大事だもん」

そう言って肩を震わせて、くしゃくしゃの笑顔で泣いている碧を見ていると、胸が熱くなった。



帰り道は、碧が車で近くの駅まで送ってくれた。
遥に会えないのは残念だったけど、またこっちにも二人で帰っておいで、と話した。

「……先生に謝りたいなんて、誰にも言えなかったの。千晴に聞いてもらえて、救われた」

「今、遥のこと大事にしてるから、それでいいんじゃない?今幸せなんだから、もういいんだよ」

「……っ」と、碧が下唇を噛む。

「え。まだ泣く?(笑)」

茶化しながら、釣られ泣きしそうになるのを食い止める。


「また会おうね。メールするから。幸せになってね。千晴」

「ありがと!碧もね」


改札に入り、碧に手を振ってホームに上がる。
もうすぐ、次の特急電車が来る。


私と先生の幸せは、この先にあるのかな。
先生には、私との未来は見えてる?

台風の後に感じたあの眩しい未来を、先生も感じていてほしい。
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