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17歳の寄り道
第38章 【千晴編】スタートライン
碧の左手薬指に光っていた、プラチナのリング。
それを見ていたら、やっぱり私も、何か、確かな約束が欲しいと妬んでしまった。

碧が幸せなのは嬉しいし、碧に僻んでいるわけじゃない。
ただ、私もあれがほしい。

って、……そんな子供じみた気持ちを抱く自分に戸惑っている。

念願が叶ったのに、それでも物足りなくなってしまうなんて。
先生をもっと強く繋ぎとめておきたいし、先生にもその覚悟があるのか知りたい。

「よく来たな」じゃなくって、「おかえり」と言ってほしい。

重い女だ。
こんな人間だって知られたら、先生は私の手を離すかな――――。


口内で蠢き合っていた舌が止まり、細い糸を引きながら熱い唇が離れた。

「……やめた」
「え?」

先生は、急にキスが終わって戸惑う私を一瞥し、背を向ける。

「疲れているんじゃないか。今日は帰ってゆっくり寝なさい」

そう言い放つと、半開きになっていたドアを開け、リビングに戻ってしまった。

バスルームにひとりぽつんと取り残されて呆然としていると、ピピ、ピピ、とお湯はりブザーが鳴り、タイミング悪く完了を伝えた。

鼻の奥がツンとして、視界がぼやける。
今の時間なら、バスで帰れるけど。


バスルームから出て、廊下に置いてあったバッグを持つ。
リビングのソファに座っている先生の後ろ姿に、「帰ります」と伝えたら、「気をつけて」と言い、振り向かなかった。

私もムキになって、サンダルをはいて、振り向かずにドアを開けた。

外は蒸し暑い。
むあっとした風を感じながら廊下を歩き、エレベーターのボタンを勢いよく押した。

一度、廊下を確認するけど、先生は追いかけてはきていない。
程無くしてエレベーターがやってきた。
後ろ髪を引かれる思いで乗り、スムーズに一階まで下ろされる。

なんか、…ダメだなぁ。私。

とぼとぼとバス停まで歩いていていると、小料理屋の女将さんが隣の惣菜屋から出てきたのが見えた。
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