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17歳の寄り道
第38章 【千晴編】スタートライン
「……すまない」

掴まれていた腕がゆっくりと離された。

「私こそすみません…めんどくさい奴で…」

立ち止まって項垂れていると、先生はスニーカーを脱いで部屋に上がる。

「めんどくさいのは知ってるよ。それでもいいんだ。俺も言葉が足りないから……ためずに思ってる事を言ってくれると助かる。……それと、夜はうろうろするんじゃない。襲われたらどうする」

「ここ、治安いいじゃないですか」

「俺が心配なんだよ」

ぐしゃぐしゃと頭を掻く先生に、少しときめきながらサンダルを脱いで、家に上がった。
怒らせちゃったけど、心配してもらえるのは嬉しい。


先生はまだお風呂に入っていなかった。
一緒に入りながら、おしゃべりをすることにした。

バス停に下る途中、女将さんが声をかけてくれて、お店でお茶をいただいたと伝えたら、先生は「女ふたりに何を言われてるかわかったもんじゃないな」と首を竦めていた。

「いい先生だっておっしゃってましたよ」

女将さんが先生に感じている恩が伝わってきて、心から幸せを願っているのがわかって。
先生は、照れているのか、何も言わなかった。


「……今日はずっと考え事してただろう。何か言いたいことがあるなら、今ここで言え」

ちゃぷ、と水面を揺らして、先生が私の前髪をすくった。
指越しに見える先生の黒い瞳が真っ直ぐに私を捕らえる。


「合鍵がほしいです……」

「…………そんな事か。」

平然と答える先生。

「そんなことー!?全然そんなことじゃないですよ!私にとっては!」

「ああ、すまない。……やっぱり、俺と付き合うのはやめるって言うのかなと思ってたから。キスしても嫌がるし」

「そんなこと言うわけ……」

反論しようと思ったけど、やめた。
私と同じように、先生も不安だったの?
そう思うと、きゅーっと胸が苦しい。


思いっきり抱きつくと、二人の顔にざぶんとお湯が掛かった。

「おい…」
「ごめんなさい…濡れちゃいましたね」

髪にお湯を滴らせながら笑い合い、吸い寄せられるように唇を重ねた。
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