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17歳の寄り道
第39章 【千晴編】夢のはじまり
「今日が最終日だろう。もう帰るのか」

校内で話すのは久しぶり。
寒さで、先生から白い息が上がっている。

「送別会は体力なくてお断りしました…。疲れちゃうので、まっすぐ帰ります」
「そうか」

フェンスに指を掛けている先生の後ろで、サッカー部員たちが一斉にこっちを見ていることに気づいた。

さわやかキーパー君と目が合い、会釈をすると「おめでとうございます!」と叫ばれた。

先生が怪訝な顔で振り返る。

「結婚おめでとうございまーす!!」
「おめでとうございまーす!」
「奥さんカワイイっす!!」
「羨ましいっす!」

次々に若者たちに囃し立てられ、つい笑ってしまった。

「あいつら…」
先生が舌打ちして戻って行くと、わああっと歓声が上がり、みんな逃げ惑っていて苦笑した。

……なんだ。
ちゃんと慕われてる?
あの頃の、翠学園サッカー部みたいに。


「サトル、よかったね。パパ楽しそうだね」

コートの中で胎動を感じながら、フラットシューズでゆっくりと歩き出し、もう足を踏み入れる事はないかもしれない、紅葉学院の門をくぐり出た。

先生と再び出逢わせてくれた縁に感謝しながら。


その晩。
今日の倉谷先生の発言を話すと、先生は苦虫を噛み潰したような顔をした。

「ロマンチック……?翠学園で勤め続けてたら、あからさまに後ろ指さされてるよ」
「そうかもしれないですね。今は有難い環境なのかも」
「今でも、いい顔しない人はいるだろう。倉谷は別として」

あ。なんか話が暗い方向へ転がってしまった。

「私の周りはみんな祝福してくれましたよ。それでいいと思っています。紅葉のサッカー部の子たちだって、みんな笑顔でしたよ?」

そう言うと、先生は私を後ろから抱きしめた。

「そうだな。……長く生きてると、ひねくれちまうのかな」
「ひねくれてるのは元々じゃないですか?少なくとも8年前と変わってませんよ」

いひひっと笑うと、先生は頭を掻く。
その仕草だって、変わっていない。
大好きな先生のままだ。
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