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17歳の寄り道
第39章 【千晴編】夢のはじまり
5月のゴールデンウィーク。

「なにこれすげーかわいいー!惺~!」

ベビーベッドの中で、惺が険しい顔をして寝ているのを、惇君が覗き込んで騒いでいる。

命名、惺(さとる)。
エコーの結果を裏切らず男の子で、4月中旬に生まれた。

「惇お兄ちゃんだよ!さっちゃん!」
「さっちゃんて女子みたいだし」
「いや~神々しいな~!」

年の離れたお兄ちゃんはパシャリと写メを撮り、満足そうにしている。

先生はソファに座りながら、私と惇君のやりとりを見ていた。

「俺も結婚したくなったなぁ……。かわいいなぁ、赤子は……」
「惇君はいいパパになりそうだよね」
「そうだろ。自分でも親父より絶対いい父親になると思うもん」
「…………」

哲さん、立場なし。

「じゃ、帰ろ。長居はやめとくよ。ちーちゃん、お疲れさん。ホントにおめでとう」

「ありがとう」

惇君は、ベビー用のサッカーボールのおもちゃをプレゼントしてくれた。

惺。

心に星で、さとると読む。
澄みきった清い心を表すらしい。
見た瞬間、これだと思った。

8年前の星空の下、静かな水面に映り込んだ丸い月。
あの光景が浮かんだ。
そして、惇君とは『心』が繋がっている。

有馬さんたちに、「産んだら夫をキライになっちゃうよ〜」って聞かされていたけど、むしろその逆で、離れるのが寂しかった。
さすがに、性欲は全くないけれど。

「少し寝たらどうだ」
「じゃあ、添い寝して?」

惺が小さな手をグーにしてすやすやと眠る中、私は寄り添う大きな体に抱き締められて、ほっと心を解放した。

こうしているのが落ち着くし、一人だとなかなか寝付けないけど、先生がいてくれたらすぐに睡魔が……。


「ふ…ふぎゃああ、ふぎゃあ」

「…………」


先生と顔を見合わせて笑う。

「睡魔が来てる時の呼び出しはつらいよ〜。さっちゃん、どうしたの〜」

と、ベビーベッドを覗く。
今私の世界は、この小さな人中心に回っている。
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