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17歳の寄り道
第5章 【碧編】ファザー・コンプレックス
朝。

玄関でスニーカーの靴紐をしっかりと結び、歩いて学校に向かう。
着いた頃には汗を掻いていて、着替えが欲しいと思った。

朝練をしているサッカー部を横目に、運動部でもないのに、水道で顔を洗う。
水と首筋の汗を拭いていたら、化学室から、白衣の村上先生が出てきた。

私に気付いた村上先生は、一瞬だけ手を止めたが、すぐに後ろ手でドアを閉める。今から職員室に戻るのだろう。

「おはようございます。早いね。歩いてきたんですか」
「はい、自転車はやめました…今日は」

昨日プリンを持ってきてくれたことなんてなかったかのような、メガネの奥の冷めた瞳を見つめていると、その目元が少しだけ細くなった。

「“今日は”って、いつもだめだよ。禁止なんだから」
「そうだね…」

くすくすと笑っている様子を見つめていると、トクトクと鼓動が早まってきて、顔が紅潮する。
村上先生は視線を落として、俯き気味の私の顔を覗くようにした。


「今、話聞こうか?」

村上先生は、私の歪んだ欲望と思惑には気付いていない。
私が、何を思って先生に近づいているのか。

「……放課後…いいですか?」

メガネを上げる、細くて長い指に視線が囚われる。
この指で、触られたらどうなるんだろう。

「いいですよ。じゃあ、放課後」
と、長い指が、私の肩に近づき、優しく触れて離れた。

「――えっ…」

「糸くず。」

意識しすぎている私を見破っているように軽く笑い、村上先生は糸くずを手から落として、廊下を歩いて行った。


―――昨夜はあんなに妄想したし、この前は、車の中で抱きついたのに。

今……糸くず取られただけなのに…

水道の鏡を見ると、頬は桜色になり、熱く火照っていた。
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