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恋はいつでも平行線【完結】
第29章 *二十九*
 そう言った途端、瞳からぽろぽろと涙があふれ、頬を濡らした。
 さっきから視界が水越しに見てるみたいだと思っていたけれど、それは涙がたまっていたからだとようやく気がついた。
 自分で思っていなかった出来事に驚き、涙を拭おうと腕を顔にのばそうとして、手首が引っ張られ、縛られていることを思い出した。
 それと同時に、左手首が思い出したかのようにきりきりと痛み出した。

「…………っ」

 じっと探るような冷たい視線でわたしを見下ろしていた臣哉は、わたしの涙を見てもなにも思わないのか、動かない。
 無感動にわたしを見ている姿に、感情が爆発した。

「臣哉の──馬鹿ッ! あんたなんて、大っ嫌い!」

 どうして嫌いな男に、初めてを奪われなければならなかったのか。
 そのせいで、臣哉と望みもしない結婚をしなくてはならなくなってしまった。
 そして、臣哉は、わたしのことを嫌っている。
 だけど先ほど、臣哉が語ったとおり、臣哉にとって、わたしは、お手軽に性欲を解消できる存在であるし、そしてなにより、家を継ぎたくないみたいで、わたしとの結婚に喜んで乗ってきた。
 そこには、愛や恋といったものはなく、肉欲しかない。

 多くは望まない。
 でも、結婚する相手は、お互いが好き合っている人としたい。
 それは贅沢な望みなのだろうか。

 結婚するということは、ともに生活をして、日常を送っていくということ。

 わたしは、臣哉の性格が嫌いだ。
 離婚の理由にも『性格の不一致』が上位に来るくらい、とても大切なこと。
 そんな相手と結婚だなんて、この先、不幸しかないと言っているようなものではないだろうか。
 そんな未来だと分かっているのに、どうして自ら、あえて不幸になる選択肢を選ばねばならないの。

「デリカシーがないところと、自信過剰なところと、すぐに女の子にナンパする軽いところと! あんたのそこが嫌いよ!」

 縛られているけれど、そんなのお構いなしに暴れて、臣哉を殴ろうとしたけれど、無理だった。
 そうなるとますます腹が立って、付け足そうとしたら、臣哉に手首を掴まれた。

「ったい!」
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