この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
虹の彼方で
第15章 5月ラストの通り雨
お店の外にまで良い香りの漂っていたパン屋さんは、中に入ると、ふわっとパンの香ばしい匂いで包まれてて、思わず幸せな気分になりながら、私は迷わずトングとトレイを手にとった。
「お嬢さん、ラッキーだね。最後の焼き立てが出るよ」
「ほんとですか?」
「限定20個のレーズンパン、はい、どうぞ」
恰幅のいいおじさんが、奥からカゴを持って出てくると、中にはビニールで包まれた一斤の食パンが入っている。
と、隣の品のいいおばさまが「いただきますね」と1つ手にとって。
また、更に他のお客さんが1つ手にとって…。
驚いているうちに、背後の扉が開いて、明るいおばさんが「ご主人、今日は、パンある?」と尋ねながら入ってくる。
これって、そこそこ人気店って感じ?
(よーし)
奮発しようと心に決めて、レーズンパンを手にとると、他の棚に置かれてたメロンパンと、カレーパンもゲットする。
メロンパンとカレーパンは、明日のランチに学食の代わりにして、レーズンパンは皆で食べよう♪
レジでパンを袋に入れてもらうと、お店のおじさんが「天気雨が来そうだから、気をつけるんだよ」と声をかけてくれた。
なんだか、湿度とか温度を気にしてると、そういうのが分かるようになるらしいんだけど……。
お店を後にした私は、青く晴れ渡る空に「ほんとに?」と首を傾げて、
電車に乗るべきか数秒迷った挙句、
やっぱり1駅分、歩いて帰ろうと、クルルン荘の方角へ向けて身体を向けたのだけど、
家まで残り15分という距離で、
見事に後悔しまくるハメになるのでした……!
* * *
「うっわ……、嘘!?」
急に降り出した雨は、最初は凌げそうな小雨に感じたのに、数秒もしないうちに、一気に豪雨に早変わりしてて。
バケツの中を引っくり返したような、
勢い良いシャワーみたいな雨の中、たまらず走り出した私は、
クルルン荘の玄関にたどり着いた時には、
文字通り、下着の中までびしょ濡れのずぶ濡れという有様……。
パンはビニール袋に包んであったし、カバンも撥水加工だから、なんとか中身は大丈夫かもしれないけど、とにかく服がやばすぎる―――!