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虹の彼方で
第16章 指は絡めたまま
「ヤスに、何された……」
抱きしめられたまま、頭上から落ちてきた問いに、胸が痛くなった。
ただ、答えればいいだけ。
なのに、その答えを、答えたらいけない気がしてる。
「美咲……」
ずるい呼び方。
低い声。
低くて、甘い声。
「答えろよ」
掠れた声で尋ねられて、ギュッと抱きしめられる。
だめだよ……、言えない……。
だって……。
「美咲」
二の腕に回されてたタクミの指が、肘を伝って手首を辿り、私の指に絡まる。
絡めあった指を、
見ちゃいけないと思って目を閉じたのに、
思い出してしまったのは
あの夜、タクミに指を握られたまま交わしてた、
ココア味のキス―――。
ふっと拘束が緩んで、
絡まった指はそのままに、
反対の手で顎を持ち上げられた。
そっと目を開けると、切れ長の瞳が、私を見てた。
瞳の奥が、怖いほど熱っぽい……。
「んっ……」
羽毛みたいに、触れるだけの口づけが、落ちてくる。
何度も、
私の呼吸を取り戻すみたいに、
ゆっくり……。
なんで……?
なんで、そんなに優しく、触れるの?
このキスに、意味は、あるの……?
「美咲……」
「ん……」
キスの途中で、名前を呼ばれて、返事の代わりに鼻を鳴らす。
タクミは、私の頬に口付けると、そのまま耳元へ唇を寄せた。
吐息が、耳朶に触れて、ドキドキする。
「ヤスに、何された?」
静かに再確認して、タクミは、ゆったりと項に唇を押し当てた。
キュッと吸い付かれて、肩口にチクッとした痛みが走る。
身体がピクッと震えた時には、彼は顔を離し、私の顔を覗き込んできた。
自分勝手で無愛想で、ひどい人なのに……。
力でねじ伏せるし、強引に奪うし、口も悪い。
それなのに……。
「キス、された、だけ」
答えた時、胸がズキッと痛んだ。
何かが悲しくて苦しくて、私の唇は震えたのに、
タクミは、顔色一つ変えないまま、繋いだままの指を引っ張ると、
ベッドまで私を導いて、
シーツの海に、私を沈める。