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虹の彼方で
第6章 歓談


「お待たせ。いいよ? 翼、ベッドにおすわり」

飼い主みたいに言うと、「わん」と楽しそうに返事して、翼がベッドに乗り上げて胡座をかいた。

私も向かいに腰を下ろすと、「ありがとね」と微笑む。

「ありがと? 何が?」

「うん。正直、まさに今、困った事態に遭遇してたの」

「まじ?」

「うん、ドライヤー借りたくて」

苦笑しながら前髪を指先で一房つまんでみせる。

私の髪質はストレートなんだけど、お風呂の後とか、濡れたまま放置しちゃうと、乾く時に緩くウェーブが出てしまう。

学校に行くと、パーマかけたのか、って先生に聞かれたりするので、基本的にはドライヤーで綺麗に整えて乾かしたくて。

そんな話をしたら、向かいで聞いてた翼が、「あぁ」と納得の声をあげた。

「だからかー。なんか、美咲、さっきと感じ違うと思った」

「ちょっとうねってるでしょ?」

「うん。ま、俺、そっちも好きだけど」

「ほんと?」

「わん。可愛いわん」

「っぷ、あははは、ありがと」

急に犬になる翼に笑いながらお礼を言うと、胸がほっこり温かくなってる私に軽く頷いてから、翼は、ふと視線を空中でゆらゆらさせた。

「ドライヤー……かぁ。……あるには、あると思うけど、埃かぶってそうだしなぁ。埃かぶってないのは、美咲にはオススメできないし」

「ん? なんで?」

「埃かぶってないのは、タク兄の専用みたいな奴だから。タク兄の部屋にあるはずだし」

「あー……、そっか」

確かに、あの金髪の部屋をノックする勇気とか気力は、今の私には無いや。

「来週さ、学校帰りに一緒に買って帰る?」

「え、いいの?」

「もちろん。この辺の電気屋、美咲まだ知らないっしょ?」

「うん」

「じゃ、決まりで」

楽しそうに提案してくれた翼に、私も嬉しくなって大きく頷いた。

そんな私を見てた翼の表情から、すっと笑みが消えて、真顔になる。

え? 何?

急に真剣な顔をされると、私も、緊張するんだけど。



「翼?」



「美咲、さぁ。……ほんとに、出てっちゃう、の?」




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