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虹の彼方で
第8章 ファーストキス
―――で? いつ出てってくれんの?
金髪の問いに、私は色々と考えてから、顔を上げた。
これ以上ないくらい、身体を小さくしてから、恐る恐る、思いついたことを尋ねる。
「あ、あのね」
「おー」
「お願い、が、あるんだけど……」
「んだよ」
「今夜だけ、部屋を、交換して、もらえない……かな」
「……はぁ?」
「今日だけ! 今日だけで、いいから……。私、あの部屋に、帰るのが……」
怖くて…、と続けた声は、自分でも聞き取れないほど小さくて。
ゆっくり近づいた金髪に腕を掴まれた時には、その力の強さに、追い出されるのかと身体が強張った。
両腕を掴まれて無理やり立たされて目を瞑った瞬間、私の身体はベッドの方へ放り投げられてて。
「っ! キャッ!」
ベッドに仰向けに沈んだ瞬間、金髪男が上に乗り込んでくる。
その髪の毛は、薄い光に照らされてライオンのたてがみみたいに光ってた。
「え? 何!?」
「その条件、いいぜ? 飲んでやる。交換条件で」
「……交換、条件?」
「そ」
私の太腿を跨いで座り込んだ金髪に、身の危険を感じて唇が震える。
驚いて、なんとなく身体を捩るけど動けない。
そんな私に構うことなく、金髪は、私の顔にかかった黒髪を指先でどかしながら微笑む。
「お前のファーストキス、もらう」
「え?」
「いわゆる、合意の? ちゃんとしたヤツ」
「な……! だって、私のファーストキスは…、さっき、……」
奪われて、という言葉尻を消すように、男が言葉を被せてくる。
「そりゃな。お前のファーストキスなんて嬉しくねーけど、お前は、ほら、好きな奴としたいとか、夢見てんだろ?」
私の顔の両脇に手をついた彼は、なんだか、獣みたいで、怖かった。
「そういう幻想、打ち砕きてーじゃん? あとは、まぁ、俺の暇つぶし」
「ひど……、んっ!」
唐突に唇を塞がれた。
一瞬目をとじると、唇はすぐ離れて「目、閉じんな」と唸るような声がする。
開かれた視界には、さっきより近い金髪の顔。
「大人の本気、味見させてやるよ」
伏し目がちに言われた言葉に、理由が分からず、私の胸は震えて―――。