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虹の彼方で
第9章 土曜の朝
どぎまぎしながらも、挨拶をした私に、遠くから大きな声がかかる。
「あんま、かしこまんなくていいぞ、美咲。どうせ野郎の集まりだ」
笑い混じりに言ったマサさんが立ち上がり、こちらに戻ってくる。
「さて、俺は、ちょい買い物。ヤス、車だせるか?」
「いいですよ。どこに行きます?」
「パスケース擦り切れたから、新調してーんだよ」
「じゃあ、ブルーポートですね」
「マサトさん。俺も同伴したい、ブルーポート」
寝てたと思った春樹君が、むくっと起き上がった。
「おう、来い来い」
「夏樹は?」
「僕は留守番してます。読みたい本があるので」
「俺も留守番。今、ゲーム熱やばい」
「下のテレビ使って構わねーぞ、翼」
「うわ、マサ兄、神!」
皆の予定を確認したマサさんが、私に顔を向けた。
「美咲、どうする?」
外出組3人は、既に扉の方にいる。
買い物、かぁ……。
何か、ほしいもの、あったっけ。
「あ……」
ふと、ドライヤーも買いに行けるかも、と思ったけれど、途端、目が合った翼が、眉を持ち上げて微笑み返したのを見て、一緒に買いに行くことを思い出す…。
「私も、留守番して、いいですか?」
「おう。じゃ、家のこと任せた。あー、洗濯物、干しといてくれっと助かる」
「マサさん? 今日の担当、マサさんじゃなかったですか?」
ジョニーさんにチクリと刺されて、「出来れば、だよ」と言い訳しながら出て行くマサさんに、思わず笑みを零しつつ、居間を出て行く3人を見送る。
と、続いて立ち上がった夏樹君に一礼された。
綺麗なお辞儀。
「僕も部屋に戻ります。何かあれば呼んで下さい」
「うん」
最初から最後まで折り目正しい夏樹君も見送ると、キッチンは私と翼だけになった。
翼の洗い物の音を聞きながら、洗濯物を干す場所を確認しようと、私は立ち上がってソファの置かれた寛ぎエリアへ移動する。
レースのカーテンを開けると、物干し竿に折りたたみハンガーが3つもかかってて、大所帯の大変さを改めて思い出したり…。
そっか、これ、全部埋まったりするんだよね。
アイロンがけとかするかな、ワイシャツとか……。
家でお父さんのワイシャツにアイロンをかけてたことを思い出した瞬間、
大事なことも一緒に思い出して、口から「はっ」と変な声が漏れた。