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虹の彼方で
第10章 後ろから
「美咲……。お前、ちゃんと家事やってきたタイプだな」
「え?」
「家政婦なんかより、新妻にしてーかもしんねーな」
ん?
思わず手を止めて横を見ると、マサさん何食わぬ顔でカップを傾けながらも、
私にしか見えない口元には、人の悪そうな笑みを浮かべてる。
「マサさん? 変な想像してません?」
「変?」
ぐっとカップの中身を飲みきったマサさんが、私の横に身体を寄せた。
ぴたっと半身がくっつく距離で、珈琲の香りが少し濃くなった。
その体制のまま、カップをシンクに置くと、マサさんが私の耳元に微かに唇を寄せる。
「なーんも変じゃねぇだろ? ご飯? お風呂? それとも、あたし? って奴。男の夢じゃねぇかよ」
ひゃっ!
カウンターで見えないのをいいことに、腰に手を回してきたマサさんに、変な緊張が走って、思わず肩が跳ねた。
反射的に、その温もりをよけようとして、何故か肘鉄がマサさんのお腹に突き刺さり。
はっとした時には、「っとととと、いってぇ」と、おどけながらマサさんが後ずさってるところだった。
「あ、ご、ごめんなさい!」
「ふはははは。いや、俺が調子のっただけだ。悪かったな、美咲」
頭を大きな手のひらで撫でられ、「そういえば、そうです」と真顔で返すと「鬼嫁になりそうだ」と笑われる。
「さて、終わったろ、洗い物」
「でも、今マサさんが出したカップが……」
「んなもん、後で構わねーし。来い来い、やるぞボドゲ」
「? ボドゲ?」
差し出された手を握り返すと、大きな手のひらで引っ張られて、私はソファの方へと導かれた。
* * *
ボードゲーム(ウノみたいなゲーム)をしている間、ふっと、マサさんの温もりを思いだして、昨日の男と比べてしまう私がいた。
忘れようって決めたはずなのに、そう簡単にはいかなくて。
一瞬、冗談めかして寄り添われただけだから、はっきり分からなかったけど、体温の高さは似てた気がしなくもなく…。
あー、もう、ゲームに集中できないもんだから、私はボロ負け!
ジョニーさんとか、ポーカーフェイスで、ガンガン勝ちをさらっていくの。
悔しくて、今度リベンジさせてください、って頼んじゃった。