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虹の彼方で
第12章 ヨツキタのアイドル

「美咲……」

「うん。……え? 何!?」

「お前、どうしたよ。元気ないどころか、心ここにあらずだろ」

「そ、そんなことないよ!」

「そんなことある。お前、さっき俺が"ヤス兄ってゴリラに似てるよな"って言ったのに、"うん"って言ってたんだぜ? ぼんやり通り越しすぎ」

「え……」

うわ、それは、……誤魔化しきれないブラフ!

「マジどうした? 初日疲れ? ドライヤー、俺が買ってこっか?」

「あ、うぅん……。そうじゃなくて」

そう会話している間も、周囲をヨツキタ生が、私達をチラチラ見ながら通り過ぎていく。

その視線に、困ったように伏し目がちになる私を見つめて、翼は一つ息を吐くと、私の手を握った。

あー、その行為が、その……!

「とりあえず、電車乗るぞ。話は地元ついてからにする」

恥ずかしさよりも、周囲に対する緊張感で、翼に握られた手首の感覚は、ほとんど無かった。

アイドルに連行される転校生(しかも、制服の入った紙袋はアイドルが持ってくれてます)。

あかんー……。パパラッチの餌食になりそう。。。





   *  *  *



「アイドル、ねぇ」

ドライヤーを購入して(しかも、それも翼が荷物として持ってくれる)、

一息つこうと、翼が入った喫茶店は、私達のような若者のいない、

落ち着いた風情あるアンティーク調の店だった。

アイスティーのガムシロップを銀色のポッドからグラスに注ぎながら、私は一つ頷く。

「親衛隊もいるし、他校にもファンがいるから、気をつけろって……、今日、仲良くなった友達が教えてくれたの」

「へぇ」

翼は、ちょっと困ったように、どこか苛立つように頷いている。

「だから、その……、一緒にいても変じゃない理由って、何かなーとかね」

「……」

「ほら、例えば、従兄弟なんです。とかさ」

「……」

「それか、その……、生き別れてた兄弟、とか……」

「嘘、つきたい?」

「そ、そういうわけじゃないけど……」

そりゃ嘘なんて、つかないに越したことないんだけど……。

こういう時って、どうしたらいいんだろう。。。

ストローでグラスをくるくるかき混ぜてると、「確かに」と翼が口を開く。



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