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虹の彼方で
第13章 こんな夜も

見つめ合ったまま、低く艶のある声で尋ねられて、布巾が手元から落ちた。

床に布が着地する、その微かな音にハッとして、慌てて視線を逸しながら、急いで布巾を拾い上げる。

なんだろ、今、胸がドキッとした、気が、しなくも、ない……!

「き、キライじゃ、ないけど……」

「ないけど?」

「どど、どうかと思います」

「! はははははは。なんだ、物言いがついたか。ふーん」

落とした布巾をひっつかみ、シンクに移動すると、急いで洗い直す。

冷たい水で指が冷えると、なんだか熱くなりかけた身体が、ほっと収まった。

いつのまにか、ちょっと熱く、なってたみたい。

「ほら、入るなら入ってこい、風呂」

「わ、分かりました! あ! ……あの」

「ん?」

「バスタオルとフェイスタオルって、借りていいんですよね?」

「―――馬鹿。”使って”いいんだよ、お前はここの住人だろ」

「あ……、はい」

さっきまで揶揄してきたマサさんの口調が、私の問いに、お兄さんの声になる。

その返事に、ふっと嬉しくなりながら、私はお風呂の支度をしに、一度2階へ上がった。



   *  *  *



「覗かないでくださいね」と念押ししたら、

マサさんてば「俺はマスターキーを持っているのだよ」と、変なキャラクター口調で返してくるものだから

「覗いたらお金もらいます」と言い切ってから、お風呂場に入った。

脱衣所の広さが2階と段違いで、しかも入浴剤もいろんなものが取り揃えてある辺り、この家、もしかして女子が住んでるんじゃないかな?(笑)

夏樹君あたり、女装癖があっても、お姉さん構わないわ!

(だって、彼、綺麗だから、きっと美しくなるもの。見た目華奢だし)

一度お風呂場の中を覗いて、浴槽に入浴剤が入ってないのを確認してから、ラベンダーを選んでみた。

紫色のお湯と、心地よい香りを楽しみながら、バスタイムを満喫して、今日一日を振りかえる。





彩乃、パワフルだし楽しいし、明るいし、素敵な友達になれそうな子だったなぁ。

それから、翼。従兄弟設定に頷いてくれて……、悪いことしちゃったかな。

あ、ドライヤー買ってくれたの、嬉しかった。

あとで、ちゃんと乾かそ。

それから、マサさんは親父。理解した。

ジョニーさんは、今夜は大学のレポートが大詰めだとか言ってたっけ。





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