この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
虹の彼方で
第13章 こんな夜も
見つめ合ったまま、低く艶のある声で尋ねられて、布巾が手元から落ちた。
床に布が着地する、その微かな音にハッとして、慌てて視線を逸しながら、急いで布巾を拾い上げる。
なんだろ、今、胸がドキッとした、気が、しなくも、ない……!
「き、キライじゃ、ないけど……」
「ないけど?」
「どど、どうかと思います」
「! はははははは。なんだ、物言いがついたか。ふーん」
落とした布巾をひっつかみ、シンクに移動すると、急いで洗い直す。
冷たい水で指が冷えると、なんだか熱くなりかけた身体が、ほっと収まった。
いつのまにか、ちょっと熱く、なってたみたい。
「ほら、入るなら入ってこい、風呂」
「わ、分かりました! あ! ……あの」
「ん?」
「バスタオルとフェイスタオルって、借りていいんですよね?」
「―――馬鹿。”使って”いいんだよ、お前はここの住人だろ」
「あ……、はい」
さっきまで揶揄してきたマサさんの口調が、私の問いに、お兄さんの声になる。
その返事に、ふっと嬉しくなりながら、私はお風呂の支度をしに、一度2階へ上がった。
* * *
「覗かないでくださいね」と念押ししたら、
マサさんてば「俺はマスターキーを持っているのだよ」と、変なキャラクター口調で返してくるものだから
「覗いたらお金もらいます」と言い切ってから、お風呂場に入った。
脱衣所の広さが2階と段違いで、しかも入浴剤もいろんなものが取り揃えてある辺り、この家、もしかして女子が住んでるんじゃないかな?(笑)
夏樹君あたり、女装癖があっても、お姉さん構わないわ!
(だって、彼、綺麗だから、きっと美しくなるもの。見た目華奢だし)
一度お風呂場の中を覗いて、浴槽に入浴剤が入ってないのを確認してから、ラベンダーを選んでみた。
紫色のお湯と、心地よい香りを楽しみながら、バスタイムを満喫して、今日一日を振りかえる。
彩乃、パワフルだし楽しいし、明るいし、素敵な友達になれそうな子だったなぁ。
それから、翼。従兄弟設定に頷いてくれて……、悪いことしちゃったかな。
あ、ドライヤー買ってくれたの、嬉しかった。
あとで、ちゃんと乾かそ。
それから、マサさんは親父。理解した。
ジョニーさんは、今夜は大学のレポートが大詰めだとか言ってたっけ。