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虹の彼方で
第14章 思い、それぞれ

「春樹君?」

「ん」

返事の代わりに、私の膝に、自分の持ってたカバンを預けてくる。

これは間違いなく春樹君だ。

あれ? 夏樹君は、一緒じゃないのかな?

「夏樹君は?」

「買い物」

「そっか」

ブーッとブザーの音がして、バスのドアが閉まる。

ちょっとだけ、気まずい……。

会話が無くて、そわそわしながら彼を見上げると、春樹君は、疲れているのか少し眠そうに窓の外を眺めていた。





   *  *  *






結局、バスの中では会話らしい会話も無いまま、私達はバスを降りた。

乗車中の会話は、

『今日、バスケ部の練習試合で翼を見たんだ』

『へぇ』

『なんか、昨日も思ったけど、凄かった』

『そ』

これだけ……。

話しかけると答えてくれるから、拒絶されてるんじゃないのは分かるんだけど、

なんというか、穴のあいてしまった風船みたいに、なかなか膨らまないのです。

もうさ、春樹君てば、ほとんど"ひらがな一文字"で会話成立させてるよね?

省エネすぎでしょ。もうちょっと使っていいでしょ、エネルギー。



そんなことを思いながら坂道を上がってクルルン荘に入ると、

「ただいま」とリビングに声だけかけて2階へ上がろうとした

私の手を、春樹君が急に掴んだ。



「足」

「え?」

「左、いてーの?」



階段を上がりかけて止まった足を、じっと見つめてから、春樹君が私の顔へ視線を向ける。



「あ……、うん、なんとなく、ね」

「そ」



そのまま手を離した彼が、無言のままリビングに入っていくから、

一瞬ぽかんとした私は、

とりあえず、2階に上がり、自分の部屋へと帰宅した。



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