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篠突く - 禁断の果実 -
第8章 過去編二話 生きた証



 小学校から帰ってきて、見たんだ。父さんが母さんを殴ってた。
 髪を引っ掴んで、顔を殴って、お腹を蹴って、母さんの頭から血が流れてるのに、父さんはやめなかった。やめてって母さんが泣き叫んでるのに、父さんはやめなかった。
 そんなの見てられなくてさ。母さんが可哀想だ、母さんをいじめる父さんなんて大嫌い……そう叫んで止めに入った。だけど、父さんは俺を突き飛ばしたんだ。それからだったよ、父さんが俺を殴るようになったのは。
 俺を殴った日は、父さんの機嫌が良かった。その日だけは母さんを殴らないんだ。良かった、これで母さんを守ることができる。これで母さんは苦しまずに済む。
 そう思った矢先だった。母さんが俺の部屋に来たんだ。カッターを持って。
 母さんは何も言わずに俺に近づいて、顔を切りつけてきた。目の少し下だったかな、もう傷は残ってないけど。お父さんに謝りなさい、お父さんに大嫌いなんて言う子はうちの子じゃありませんって泣きながら言うんだ。
 初めて父さんに突き飛ばされたあの日、母さんは俺を庇ったんだよ。子供にだけは手を出さないでって。それが数日経ってみればこのザマだ。
 ……なんで母さんがそうなったのかなんて知らない。知りたくもない。だけど、子供ながらに思ったよ。バカな女だって。母さんは、本当にバカだよ……。
 きっと、そうしろって父さんに言われたんだろうな。その日以来、母さんの顔には痣なんて無かったから。子供に手を出すなって言ったのは、母さんなのに。



 孝哉は、寂しそうに微笑った。
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