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篠突く - 禁断の果実 -
第9章 過去編三話 守るということ



 ドスッという鈍い音が響いた。孝哉は腹を蹴られた衝撃によって、背中を壁に強く打ちつける。
 リビングの向かいにある六畳の和室で、それは行われていた。快楽という名の、父の暴力。ストレス解消という名の、父の虐待。
 疼くような痛みに悲鳴を上げる腹を押さえて、孝哉は声を出さずに悶絶した。上体を前に倒し、息を深く吐き出すことでやり過ごす。そうして落ち着きを取り戻した孝哉が再び顔を上げる頃には、父の不機嫌そうな顔が間近に迫っていた。

「……おい、なんだその目は」

 地を這うような低い声。静かに、孝哉の耳を舐めるようにこびりついたそれは、彼を怯えさせるには充分だった。
 圧倒的な力よりも、威圧的な言葉のほうが恐ろしい。何故ならそれは、言葉の後には確実な暴力が待っているから。孝哉にとっては、身体的な暴力よりも、父という存在のほうが恐怖なのだ。父の声に触れられるくらいなら、父の視線に触れられるくらいなら、ただ殴られていたほうが、ただ蹴られていたほうが、遥かにマシだと思う。
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