この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
篠突く - 禁断の果実 -
第9章 過去編三話 守るということ

父は、孝哉の前髪を引きちぎらんばかりに鷲掴みにし、強引に顔を上向けさせた。孝哉の瞳が揺れる。殴られる、殴られる。……殴られる。
握力で骨が粉砕するのではないかと思うほど強く握りしめられた父の拳は、頭上高く振り上げられた。身を竦ませ、痛みを覚悟して目をつぶる。次の瞬間響いた、何かを殴るようないやな音。だが、いつまで経っても衝撃や痛みはやってこなかった。強くつぶっていた目をそっと開けると、目の前には両腕を広げて自分を庇う――。
「姉さん!」
――悠の姿があった。
悠は左頬を一発、殴られていた。唇の端には血が滲み、彼女の端正な顔立ちに痛々しい赤が目立つ。
目の前で拳を振り下ろした体勢のまま固まっている父を、悠はキッと睨みつけた。
「何してんのよ」
それは、女性らしい柔らかさなどまるで無く、怒りのこもった、ドスのきいた声だった。
「……悠……すまない」
父は素直に謝罪の言葉を述べる。
彼は、悠だけは自分に反抗しないと思っていた。それだけに、彼女のその行動にひどく驚いた様子だった。
「謝ってほしいなんて言ってないわよ。私の弟に何してんのって聞いてるの」
威勢よく父に歯向かう悠だが、その肩は微かに震えていた。人に殴られるのは初めての経験だった。人に殴られるのが、こんなに痛いだなんて知らなかった。彼女は、また、いつくるとも知れぬ身体的な暴力に怯えている。
握力で骨が粉砕するのではないかと思うほど強く握りしめられた父の拳は、頭上高く振り上げられた。身を竦ませ、痛みを覚悟して目をつぶる。次の瞬間響いた、何かを殴るようないやな音。だが、いつまで経っても衝撃や痛みはやってこなかった。強くつぶっていた目をそっと開けると、目の前には両腕を広げて自分を庇う――。
「姉さん!」
――悠の姿があった。
悠は左頬を一発、殴られていた。唇の端には血が滲み、彼女の端正な顔立ちに痛々しい赤が目立つ。
目の前で拳を振り下ろした体勢のまま固まっている父を、悠はキッと睨みつけた。
「何してんのよ」
それは、女性らしい柔らかさなどまるで無く、怒りのこもった、ドスのきいた声だった。
「……悠……すまない」
父は素直に謝罪の言葉を述べる。
彼は、悠だけは自分に反抗しないと思っていた。それだけに、彼女のその行動にひどく驚いた様子だった。
「謝ってほしいなんて言ってないわよ。私の弟に何してんのって聞いてるの」
威勢よく父に歯向かう悠だが、その肩は微かに震えていた。人に殴られるのは初めての経験だった。人に殴られるのが、こんなに痛いだなんて知らなかった。彼女は、また、いつくるとも知れぬ身体的な暴力に怯えている。

