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篠突く - 禁断の果実 -
第9章 過去編三話 守るということ

じわりと口中に広がった、鉄の味のするそれを、父の顔めがけて吐きかけた。誰しもそんなことをされたら不快に思う。案の定、父は顔を歪めた。
「私の弟を……孝哉を殴りたいなら、私をぶちのめしてから行きなさい。お父さんの手が赤くなっても、痛くなっても、私は退かないわよ」
「……姉さん……やめて……」
覚悟を決めて吐いた悠の背後から、弟の、怯えるような掠れた声がした。孝哉は、悠が挑発をすることで、今度は彼女が暴力の標的になってしまうのではないかと危惧していた。だが、悠は更に鋭く父を睨みつけ、恐怖で声が震えないように、獲物を前にして興奮する獣のような深呼吸をした。
「いいのよ、孝哉。私はあんたを守りたいの」
孝哉の危惧は、恐らく無駄に終わるだろう。いや、そうであってほしいと思った。父は悠を殴ることができない。けれど、それは彼女の推測に過ぎない。人は、環境次第で容易く変わってしまうものだから。
「私の弟を……孝哉を殴りたいなら、私をぶちのめしてから行きなさい。お父さんの手が赤くなっても、痛くなっても、私は退かないわよ」
「……姉さん……やめて……」
覚悟を決めて吐いた悠の背後から、弟の、怯えるような掠れた声がした。孝哉は、悠が挑発をすることで、今度は彼女が暴力の標的になってしまうのではないかと危惧していた。だが、悠は更に鋭く父を睨みつけ、恐怖で声が震えないように、獲物を前にして興奮する獣のような深呼吸をした。
「いいのよ、孝哉。私はあんたを守りたいの」
孝哉の危惧は、恐らく無駄に終わるだろう。いや、そうであってほしいと思った。父は悠を殴ることができない。けれど、それは彼女の推測に過ぎない。人は、環境次第で容易く変わってしまうものだから。

