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篠突く - 禁断の果実 -
第2章 本編二話 吐露
 林 紗絵の声が掠れて震えた。気丈に振る舞ってはいるが、動揺しているのは明らかだった。一拍の間も置かずその場に両手をつき、目の前で深々と頭を下げた彼氏を見て、林 紗絵の眉間にシワが刻まれる。

「別れてください」
「…………」
「……俺が好きなのは……姉さんです」

 孝哉が手で示した先――私のほうへ視線を滑らせた林 紗絵の目は大きく見開かれ、それはまるで、この世のものではないものを見るふうだった。潤んだ瞳が、私を睨んでいる気がした。途端、部屋の空気が張り詰める。私は平静を装い、心の中で深く溜め息を吐いた。
 ――……言わんこっちゃない。

「……紗絵ちゃん、ごめんね。そういうことだから」
「……いいえ」

 低く押し殺した声だった。顔を前に戻した林 紗絵の背中は、小刻みに震えていた。彼女の斜め後ろに座る私からは、その俯いた可愛い顔が僅かに見える。人形を思わせるふっくらとした頬を微かに紅潮させ、一筋の涙を流す。きゅっと引き結ばれた唇が、やっとの思いで言葉を押し出した。

「……帰ります、お邪魔しました」

 目も合わせず頭を下げた林 紗絵に、送っていこうかと声をかけようとしたがやめた。言ってしまえば私は、彼女の恋敵なのだ。そんな相手に送られるなど、私だったら死んでも嫌だ。
 乱れの無いシーツの上に足を投げ出して窓から外を見ていると、やがて玄関から出てきた林 紗絵がこちらを一瞬睨みつけ、駅のほうへ駆けていった。
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