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神は現で夢を見る
第2章 漆黒の乙女と薬師
凪は、海が地上に降りる為の大事な連れだ。
勿論、逸れだけの意味じゃ無い。
有る意味、心が凍てついてささくれていた海を『愛し』『慈しみ』『優しさ』を教え、与えた女が凪だ。
それも、『無償の愛』ときた。
そんな彼女を、海は何時しか愛し、離したく無いと思うようになった。
それは、至極当前の事象。
人の一生を終え、凪が死を迎えると、その身に貯めた『不浄の闇』を浄化する為、彼女の魂は、この、晴明屋敷に戻る。
勿論、海も人の一生を終えて天界に戻るのだが。
海の友人でも有る、晴明と言う男が住む『晴明屋敷』に戻るのは、凪ただ1人。
海の身は、天界へと引き戻されて、二人は離れ離れとなる。
海の名は実は、いわゆる幼名と言うもので、今も尚、この名で呼ぶのは、凪と晴明の親子のみだった。
海の現在の名は、『薬師』。
そう、ご存知の通り、『薬師如来』その人である。
薬師如来の性質である人への愛情とは、はたしてそれだけで括られるのか。
それは、本人のみぞ知る。
「晴明、凪を諦めろって、どういう意味? 」
剣呑とした海の表情。
晴明と言えど、事と次第によっては叩き切るぞと、言わんばかりの迫力を内に秘め、海は静かに怒りを顕わにした。
「海よ………。凪は、どれだけお前の連れ合いやってると思ってんの? お前や私は最早、無限に近い生が有るが、凪は有限だ…………。寿命なんだよ。こればっかりは、私でもどうしようも無い」
呆れ顔の晴明にそう告げられて、海は、呆然とした顔を晴明に見せた。