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資料室の恋人
第1章 いつもの場所
***
あの日の出来事を思い出す日和。
あれ以降も日和は毎週資料室を訪れた。
本当は気まずかった。しかし、多少気まずくても、今まで通り行った方がいいという結論に至ったのだ。1度行かなくなってしまえば、さらに気まずくなって行きづらくなる。本が読み放題という、こんなに好条件の場所を手放したくなかった。でもそれは、ここに通う当時の理由。
「三木さん、そろそろ閉めるよ。読み終わった?」
「あと少しです。来週までお預けですね」
本を棚に戻し、帰る準備をする。
ちらりと視線を向けると、缶コーヒーに口を付ける佐倉と目が合った。
気付けばこんな関係が1年も続いている。
先生はどう思っているんだろう。
この資料室で初めて会った当時、2年生だった日和は大学3年生になっていた。
「どうしたの?」
「いえ、別に」
「あ~、分かった、しょうがないなぁ…ちょっと待ってて」
「えっ、先生?」
佐倉が小走りで資料室から出ていく。
「分かったって…なにが?」
佐倉が出ていって急に静かになった気がした。改めて室内を見渡す。日和はあくびをして机に伏した。
初めは、誰にも邪魔されないこの静けさが好きで通っていたのに。好きな人と好きなことが出来る場所に変わっていた。
「三木さん」
少し息を上げて戻ってきた佐倉の手には缶コーヒーとペットボトルのお茶が握られていた。
どうやら自販機へ行っていたらしい。