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資料室の恋人
第4章 オレンジ色の部屋
金曜日。
講義終わりに、いつものように資料室へ行くと珍しく佐倉はまだ来ていなかった。
「あれ?」
何か仕事が長引いているのかもしれない。
日和は資料室の前でしばらく待っていると、カーディガンのポケットに入れていた携帯電話がぶるぶると震える。
航平からのメールだった。
あの告白された日から何通かメールのやり取りがあったが、ガツガツと誘って来ることはなかった。むしろ、わかりやすい参考書や文献などを教えてくれてありがたかった。
航平は優しくて、頭が良くて、彼氏だったら楽しいだろうなと思った。佐倉のことは忘れて、航平と付き合ってみてもいいかもしれない。
「気持ちがないのに付き合ってもなぁ…」
それに、彼氏が欲しいわけでは無い。
そうじゃなくて…そばにいて欲しいのは。
日和はふうとため息をついた。
その日は1時間ほど待ったが佐倉が現れる気配はなく、日和はそのまま帰宅することにした。
メールを入れようかと思ったが、やめた。
翌週の金曜日も資料室に佐倉が来ることはなかった。
掲示板には休講や講師の出張などが貼り出されているが、佐倉が休んでいる様子はなく、講義も通常通り行われているようだった。
佐倉をキャンパス内で見かける事はなかった。
こんなに会わないのは初めてだった。