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第5章 １年前

講義が終わると、いつものように女子学生達が佐倉を囲むように集まった。

「せんせぇ〜、ここがわからなくて〜」

資料室で集めたネタの効果なのか否か。
佐倉は女子学生に好かれる傾向にあった。赴任して最初の講義で質問責めにあい、次の講義に遅れたことがある。その質問は講義の内容ではなく、佐倉の血液型や星座、年齢、既婚者か、などだった。聞いてどうするという内容だが、女性は知りたがる。その時、学生との距離の取り方は難しいと学習した。

佐倉は時間が許すまで質問に答えると、足早に資料室へと向かった。


資料室に入ると、本の独特な匂いに包まれる。
ほとんど使われていないのだろう。空気が淀んでいる気がした。佐倉は換気のために窓を開ける。すぐに心地よい風が入り、カーテンが揺れた。

佐倉は一番奥の席に座ると、論文を読み始めた。