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資料室の恋人
第5章 1年前
胸まである黒髪。華奢な手首。小柄で子供のようだが、容姿は童顔ではなく、成人した女性だった。
彼女は、質問責めをする女子学生達のように、ばさりとしたまつ毛や、うるうるの赤い唇、高揚したようなピンク色の頬はしていなかった。陶器のような滑らかな肌は白く透き通るようだ。本を読む伏せ目がちで無表情な顔はアンニュイな雰囲気を出していた。
その時、彼女の胸まである髪が、窓から入る風でふわりと揺れた。舞い上がった数本の髪が、夕陽に照らされて金色にキラキラ輝く。
綺麗だと思った。
講義に使う本を探す事も忘れ、彼女から目が離せなかった。やがて陽が沈むと時計を見た彼女は資料室を出ていった。
それから毎週金曜日には、彼女は必ず資料室に来るようになり、佐倉は彼女が来る前に資料室を開けるようにした。自分に気付いていない彼女を盗み見る。時々、彼女がひとり言をいいながら本を読むのを、笑いをこらえながら観察した。
いつ声をかけよう。
佐倉は彼女がどんな顔をするのか想像して微笑んでいた。