この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
資料室の恋人
第8章 噂の先生
「どういう事なのか説明して下さい、佐倉先生」
紳士のようなロマンスグレーの学部長は、眼鏡の奥の垂れ目で静かに見返していた。その隣にいる学科長の間宮教授が腕を組んで佐倉を睨んでいる。
「どういう事なのかと言われましても…」
佐倉がため息まじりに言うと、すかさず間宮教授が声を荒げた。
「学部長!だから私は反対したんです!いくら信頼している方の教え子だからと言って、経験の浅い、こんな気怠げな若者を雇うのは…!」
「まぁまぁ間宮先生、落ち着いて」
この日、佐倉は出勤早々学部長室に呼び出されていた。
間宮教授と学部長のやりとりを眺めながら、どうしてこうなったのかと考える。
それは今から20分ほど時間を遡ることになる。
***
「おはようございます」
いつものように挨拶をして研究室に入ると、普段とは違う雰囲気が漂っていた。それぞれの席に着いてコーヒーを飲みながら雑談をしていた助教や院生達が、佐倉が部屋に入るなりピタリと黙って気まずそうな顔をした。実験で使うマウスがカラカラと回し車を回す音だけが、普段と変わらずに響いている。
「どうかしました?」
「…いや」
歳も近く隣席の助教、浅野慎吾に聞くが、彼も目を泳がせて苦笑いを浮かべる。その時、院生の森山奈緒がコーヒーを片手にニヤニヤと笑みを浮かべて寄ってきた。