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隠しごと
第3章 痴漢
「思ったより音痴やなかったなぁ」
「ナメんなよ、これでもアニソン歌わせたら神って言われてんだからな」
店を出る頃には俺はすっかりご機嫌で。
好きな歌い手の話なんかして、勝手に盛り上がっていたんだ。
「あ、俺この電車なんだ。」
「奇遇やね、俺もや。一緒に帰ろか」
快く頷いて、やって来た電車に乗り込む。
すっかり更けた時間帯の車両は、会社帰りのサラリーマンや若者だらけでごったがえす。
座る場所はないようで、俺は仕方なく窓際の席の前でつり革を持った。
あいつは俺の後ろで優雅にその長い腕を曲げてつり革を掴む。
ガタンゴトンガタンゴトン
電車が動き始めた…
2駅くらい通りすぎ、ふいに感じた違和感。
「?」
背部の、腰よりやや下あたりに手の感触。
(気のせいか?)
過密状態で、偶然触れてしまう手にいちいち反応していられない。
(もしかしてスリか?)
一瞬冷や汗をかくも、財布はちゃんと服のポケットにしまってあると思い出し安堵する。
しかし財布がないと分かっても、その手はますます大胆さを増してくる。
まさか。
「井上くん、どないしたん?」
(てめぇかぁぁあ!!)
車内は暑く息苦しい。身動きできない。押しくらまんじゅうのように人が揉みあいひしめく。
回りに気づかれていないか気になって右に左に落ち着きなく目がさまよう、吊り革を握る手がじっとり汗ばんだ。
(まさか、冗談だろ!)
体温調節が狂う。
中はまだぬるいくらいの温度なのに、汗が止まらない。
「油断しすぎや、昨日の今日で。アホなんかな自分」
クスクスと耳朶を湿らせる吐息。
耳元で囁かれる陰険に低い声。
振り返ってムカつく面を確認したいが、それもできない。
「……ヤメロ…よ…」
「かぼそうて聞こえんよ?」
失笑を孕んだ声が、耳の裏から聞こえてくる。
こんな場所で、こんなことされて声出せっていうのか。
「……最悪だ…アンタ…ッン…」
生唾を飲む。ズボンの上からねっとり円を描くように尻をもまれる。
気色悪さに肌が粟立った。
「いい加減にしないと、警察呼ぶぞ…」
「呼んでもかまんで?恥ずかしい思いするんはお互い様やしな」
アイツの指が尻たぶを掴んで捏ね回す。