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隠しごと
第3章 痴漢

 「………ンン…イ、アッ」

ズボンの真ん中の縫い目に指がくいこむ。
くりかえし、なぞる。

「ん?なんか色っぽい声が聞こえたなぁ、空耳やろか」
 
「……最ッ低だ…ア、ンン」

クスクスと笑われて、男としての尊厳なんてズタズタだ。
こいつに下半身をなでまくられて、おそらく顔を真っ赤にしている自分を想像し、屈辱が怒りをしのぐ。

尻をなでまわされる不快感と僅かな快感を必死にこらえ、吊り革を軋むほど引っ張り虚勢を装う。

「楽しいか、よ…変態…フゥ、ゥ…」

「楽しいで?井上くんのその悔しそうな顔も声も。恥ずかしい?悲しい?腹立たしい?」

「俺は…」

「どれでもええよ。君が笑ってなければ」


何で

何で、俺がコイツに何をした


純粋な悲しみで脳裏が真っ黒に染まる。

見に覚えのない言われように思わず泣きそうになって、ふっと前に回った手が股間を掴み、喉が詰まる。

「……男に痴漢されて気持ちええようになったら、また眠れんなるかな。目の下のクマもっとひどなるね」

いきなりトーンが低くなる。
凄みを帯びた囁きに恐怖を感じる。
吊り革を片手で掴んで俯く、男に痴漢されるみじめさ情けなさに泣きたくなる。
執拗な手から逃げて移動しようにも人が詰まって、肘がちょっとぶつかっただけでいやな顔される、迷惑げな舌打ちが返る崖っぷちな状況で。


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