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サキュバスちゃんの純情《長編》
第1章 情事と事情

「あぁ、相席ですか、失礼」

 テーブルいっぱいに広げた皿を片付けながら、男性はオレンジジュースを飲み干した。ウエイターが皿を下げ、私が正面に座ると、彼は小首を傾げた。

「まだ席は空いてますけど、どうして相席なんでしょうね?」
「お連れ様、と言っていました。もしかして、湯川先生のお知り合いの方ですか?」

 椅子はふかふかのソファのような柔らかいもの。座るとズブズブ沈む。気持ちいい。
 男性と顔を見合わせると、一瞬の間のあと顔を歪めて「あの野郎」と呟くのが聞こえた。あの湯川先生の野郎の知り合いのようです。

「あー……湯川の同期の水森と言います。あのバカとは高校時代からの腐れ縁で」
「水森、さん……もしかして精神科のお医者様でいらっしゃいますか?」
「あ、はい。湯川から聞いていますか?」

 やっぱり。
 いい精神科医として手渡された紙に書いてあった名前が、確か水森だった。なるほど、私が連絡するわけがないことを見越して、強引に引き合わせたな、湯川先生め。

「いい精神科医が友人にいると湯川先生から聞いたことがありまして」
「なるほど。じゃあ、あなたが」

 水森さんは声のトーンを落として。

「――セックス依存症の、結婚相手」

 カニ、やっぱり買ってきてもらおう。
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