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サキュバスちゃんの純情《長編》
第4章 過日の果実

「……湯川先生」
ビクリ、と先生の肩が震えた。ゆっくりと絵から視線を外して、怯えた目で私を見下ろす。見上げる私は、笑う。笑えているだろうか。
「あかり、俺は」
「高校生のときから、私を探してくれていたんですね」
高校生にこの絵は刺激が強すぎると思う。明らかに事後の絵ではないか。まったく、もう。
せめて、水森さんの家にあるという見返りの裸婦とかのほうが良かった。たぶん、あれなら、刺激が強すぎることは、ないと思う。覚えていないけど。
「ありがとうございます、私を見つけてくださって」
「あかり、その、怒って、ない?」
「まさか。怒ってなんか」
そんな必要はない。そんな余裕もない。
零れ落ちそうになる涙をこらえるので、必死だ。
「せんせ……っ」
また、会えるなんて、思わなかった。
叡心先生の絵に再会できるなんて、思わなかった。
広島市に売られていった絵の大半は、既に戦争で焼失してしまったのだと思っていたし、水森家がまだ所有してくれているなんて、思ってもみなかったから。
ポーチからハンカチを取り出して、涙を拭く。
「あかり? 大丈夫?」
大丈夫じゃない。
全然、大丈夫じゃない。
嬉しくて。
嬉しすぎて、全然、大丈夫じゃない。
「あかり、あっち……あっちで休もう?」
湯川先生が休憩用のソファへ連れてきてくれて、ようやく私は、くったりと緊張を解く。
叡心先生……会いたかった……。
そうか、私、また会いたかったんだ……。

