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サキュバスちゃんの純情《長編》
第4章 過日の果実

「そういえば、あかりは、何で泣いたの?」

 あー、それよそれ。どう誤魔化そうかなぁ。
 叡心先生の絵を久々に見ることができて嬉しかったと言ったら、色々なことがバレてしまうし。

「あ、あのっ」

 話を遮って私と湯川先生の前に立ったのは、事務員のような地味な格好をした女性だ。

「私、この美術館で学芸員をしております、鈴木と申します」

 社員証もつけているし、名刺も手渡してくれたので、鈴木さんは学芸員で間違いない。
 ……あ、まさか。

「あの、失礼かと思いますが……もしかして、村上叡心の絵のモデルをなさっていた方の血縁者の方でいらっしゃいますか?」

 展示室に入る際に監視員が慌てていたのは、これか。絵とそっくりの女が現れたのだから、ビックリして責任者を呼びに行くのも当然かもしれない。
 ……なるほど。
 どうやら私はツイているようだ。この話に乗らない手はない。

「……実は昔、母から曾祖母だったか、そのまた祖母だったかが画家と恋をしたようなことを聞いたことがありまして」

 湯川先生は目を丸くしている。鈴木さんは「まあ!」と目を輝かせている。
 水森さんのお祖母様には白を切ったけど、今の窮地を救うためだ。
 嘘を、つかせてもらおう。

「それはそれは! 是非、お写真を……!」
「いえ、いえ、そんな!」
「是非っ!」

 さすがに絵も写真も残ってしまったら、今後の――だいぶ先の生活に支障が出るかもしれないので固辞する。あまり私のことは記録に残したくはないのだ。

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