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サキュバスちゃんの純情《長編》
第4章 過日の果実

「……あぁ、これをポスターにしたんだ」
少し首を傾げて、女がこちらを振り返っている。その口元には薄く笑みが浮かび、乱れた髪と背中のほくろが何とも言えない妖艶さを醸し出している。
――見返りの裸婦像。
この、絵だったのか。
私を、ここまで綺麗に描いてくれた人は、叡心先生だけだ。いや、叡心先生だからこそ描くことができた、のだろうか。
この絵を境に、私たちは地獄を見るというのに。こんなにも、綺麗に。
「相変わらず、綺麗だな」
チラと湯川先生を見上げると、その視線を抗議だと受け取ったのか、先生は慌てて「あかりのほうが綺麗だよ」と笑った。
すみませんね、何だか余計な気を遣わせちゃったみたいで。
ギャラリーは程よく冷房が効いている。受付をすませて、ギャラリーの廊下を歩く。展示室の作品に陽が当たらないように、廊下を作っているのだろう。その壁には、ポスターやフライヤーが所狭しと貼り付けてある。統一感はない。現代アート、写真、彫刻……個展や所蔵品を展示するのによく使われているギャラリーらしい。
展示室は二箇所。今回は二部屋とも村上叡心の作品を展示してあるようだ。
順路と書かれた札の通り、部屋へ入る。
瞬間――。
『俺ァ風景画なんて描かねェよ。人間を描きてえんだ』
人間を描きたい――叡心先生はその言葉通り、風景だけの絵は描かなかった。けれど、叡心先生があの町を愛していたのはよく知っていた。町の中に生きる人間――叡心先生が描きたかったのは、それだ。
だから、こんなにも、懐かしい気持ちになる。

