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サキュバスちゃんの純情《長編》
第4章 過日の果実

「瀬戸内は穏やかな海なんだね」

 船で魚を捕るおじいちゃん。魚の行商をするおばさん。坂の上から眼下に広がる景色を見る子ども。縁側で猫を抱いたまま眠るおばあちゃん。桜の木の下に佇む若い女。
 叡心先生は、すべてを、愛していた。

「内海だからね」
「いつか、行ってみたいな、あかりと」

 約束のできない、いつか。遠い未来の話だ。
 叡心先生の二十代の若々しい筆致に、不思議な気持ちになる。こういう描き方もしていたのだと。
 けれど、この頃の絵のほとんどは、画商に売っていたはず。水森家が買ったのだろうか。状態もすごくいい。きちんと保管されていたのだとわかる。
 大事に、扱ってくれていたのだ。それがわかるだけでも嬉しい。

「あら、湯川くん、来てくださったのね」
「千恵子さん。お久しぶりです」

 五つ紋の色留袖を着た水森さんのお祖母様が、他の客との話を切り上げてこちらへやってきた。日曜日だからか、客入りは悪くない。年配の方が多い。

「月野さんも、来てくださってありがとう」
「いえ、こちらこそお招きいただき、ありがとうございます」

 湯川先生が持っていた箱根土産をお祖母様に渡す。お祖母様は「必要ないのに」とおっしゃって、微笑む。

「ゆっくりしていらして。康太は今日来るかどうかわからないけれど」
「休みの日くらい、あいつの顔なんて見たくないですよ」
「あら、そうねぇ」

 軽く冗談を言い合う二人から、仲の良さが窺える。さすが、水森家にほぼ毎日通っていたというだけある湯川先生の態度だ。
 が、展示室にいる水森家の関係者はお祖母様だけだ。接客はすべて彼女が担当するのだろうか。
 お客様が入ってくるたび、そちらへ挨拶に向かう。忙しそうだけど、お祖母様はとても嬉しそうに、楽しそうに、絵の解説もしている。

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