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サキュバスちゃんの純情《長編》
第4章 過日の果実

「次はあっちの部屋かな」
順路の札を見つけて、湯川先生と向かう。たぶん、もう一つの部屋にある絵は、すべて――。
「……すごい」
先ほどの展示室より大きめの部屋。その壁に、大小様々な絵が飾られている。すべて、裸婦像――私だ。
裸のまま横たわっているもの、裸の上に着物を羽織っているだけのもの、水浴びをしているときのもの、窓枠にもたれているもの、笑っているもの、無表情のもの……様々だ。
「こんなにあったんだ……見たことない絵もある」
村上叡心は、私の絵をコンクールに出していない。あの時代、裸婦を描くことは糾弾の的だった。だから、裸婦を描けば必ず買ってくれる好事家だけを相手にしていた。その筆頭が水森貴一。
先生は町の人々の生を描きながら、世には出せない性を描き続けた。先生が本当はどちらを描き続けたかったのか、最後まで口にしなかった。
叡心先生の年齢の順に飾られた絵の、後半を見て、湯川先生は唸る。
「このあたりは知らないなぁ。なんか、見ていて……つらい」
四十代からの絵は、私もあまり見たくない。叡心先生の苦悩や悲哀が筆に込められているからだ。
私の表情は暗く、背景すら淀んでいる。裸の上に重ねられた鮮やかすぎる絵の具が、叡心先生の辛さを物語る。
私は、叡心先生を支えられなかった。先生が心を病んでいくのを、見ているしかできなかった。
「あかりのお祖母様は、変わらないまま、綺麗だね。あ、でも、やっぱりこのあたりから笑わなくなってる」
湯川先生も気づくほどに、私の風貌は変わらない。
けれど、絵には顕著に変化が現れる。トーンが暗くなり、肌の上に絵の具が重ねられている絵が多くなる。
展示室にいるお客様は、私が裸婦像の女だとは気づいていない。皆、叡心先生の絵を見てくれている。それが、嬉しい。

