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サキュバスちゃんの純情《長編》
第4章 過日の果実

ギャラリーの近くの喫茶店に、水森さんと二人で入る。窓際ではなく、奥の席に座り、ブレンドを注文する。
水森さんは眼鏡の位置を少し上げて、話を切り出した。
「水森貴一の日記が残っています。村上叡心の絵を初めて見たときから、あなたに恋焦がれていた様子が窺えます」
「……ちょっと待ってください。あの絵のモデルは私ではありません」
前提が間違っていると言いたかったのだけど、水森さんは不思議そうに私を見るだけだ。
「あなたでしょう。違いますか?」
「私、どれだけ長生きなんですか」
「百年くらいは生きられるでしょう? 不老の生物なのですから」
これは、困った。冗談ではないようだ。
水森さんは本気で、私が村上ミチだと思っている。そして、それは、間違いではない。困った。
「……あぁ、先にお伝えしておくと、僕はあなた以外にも不老の生物を知っているんですよ」
「……え?」
「国外にいる次兄の恋人が、そうです。彼女は、血を摂取しないと生きられない生物です。俗っぽい言い方をすると、吸血鬼、なんですよ」
吸血鬼……?
血を摂取しないと生きられない……?
「だから、彼女は身分を変えるたびに、医師や看護師の資格を取得する生活を送っていました。それらの職業なら血を扱いますからね」
「……」
「しかし、医療器具の廃棄方法などが規則で決められている日本や先進国では生きづらいことを知り、後進国にて医療行為と血の摂取を行なうことにしたようです。とは言っても、恋人である次兄が、以前から血を提供していましたけどね」
……同じ、か。血と精液の違いだけで、本質は同じ。それがないと、生きていけない。
だから、「そういう生物がいる」と水森さんは知っていた。私が「そういう生物」であると見抜いたのは、見抜けたのは、そのためか。

