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サキュバスちゃんの純情《長編》
第4章 過日の果実

「村上ミチは、月野あかりさん、あなたですね?」
「それを知って、どうするんですか?」
「僕は最初から伝えているでしょう。知的好奇心を満たしたいのだと。あなたの生態に興味があるのだと」
それは、水森さんもセフレに加わりたいということか? そういう誘いか?
「私をどうしたいんですか?」
「あぁ……あなたとセックスはしません。ただ、話し相手になってもらいたいだけです」
「話し、相手……?」
「そう。例えば」
ブレンドコーヒーを飲んで、水森さんは微笑んだ。
「例えば――村上叡心と、水森貴一と、あなたの関係、とか聞かせてほしいと思いますが」
手が、震える。思わず、手を強く握りしめる。
村上叡心と私は夫婦で、水森貴一はパトロン、だった。
それがいつしか、叡心先生の衣食住と絵のために、妻である私が、水森貴一に請われて体を提供する――そんな狂った関係に変わってしまった。
私に綺麗な着物を着せて、満足そうに笑いながら、私を優しく抱く水森貴一。
「すまない」と何度もむせび泣きながら、水森貴一との情事の痕跡の上に、鮮やかな絵の具を塗りつけていく叡心先生。
その叡心先生の手によって、また新しいキャンバスに生まれ変わったような気になる私。
叡心先生の目の前で、水森貴一が私を抱くこともあった。何度も、何度も。水森貴一が満足するまで、一日中。
夫の前で他の男から抱かれる辛さを、汚されていく地獄を、私は受け入れるしかなかった。先生は泣きながら、唇を噛み締めながら、それでも、筆は休めなかった。
水森貴一は、そんな私の絵を、叡心先生が描く私の絵を、好んだ。

